
STORY
ロンドンとミラノをベースにファッションデザインやコンサルティングの分野で活躍したソフィー・マッケイが手がけるジュエリーブランド
「BAR Jewelry」。シンプルなのに、いつものスタイリングを瞬時にアップデートしてくれるモダンさを兼ね備えたデザインで注目を集めている。
そぎ落とされた造形美と機能性、環境への配慮をコンセプトに掲げた独自のデザイン哲学について聞いてみた。
──もともとファッションデザイナーやコンサルティングにも携わっていたと聞きました。ジュエリーのデザインを志したきっかけはありますか?
ソフィー ハイブランドのコンサルティングをしている時に少し自分の時間がもてたんです。その時に、本当に自分は何をしたいのかと考えました。
もともとヴィンテージジュエリーを集めるのが好きで、空いた時間に技術を学ぶ学校に通い、そこから独学でジュエリーデザインを始めたんです。
ファッションデザインもしていたので、ジュエリーがスタイリングにどのような影響を与えるかも熟知していたので、自然な流れでしたね。
──幼少期に思い出に残るジュエリーのエピソードはありますか?
ソフィー 母の宝石箱を眺めていた記憶があります。その中から何かを見つけるのが好きでしたね。マザーオブパールのブローチや祖母から引き継いだジュエリーなどを覚えています。
自分で買うようになってから好きになったのは、ヴィンテージの北欧のデザインやヴィクトリア時代のものかな。
──ブランド名にもある“BAR”とはジュエリーが生まれる前の金属のかたまりであることを意味するそうですね。そのような考えに至った理由を教えてください。
ソフィー ブランドを立ち上げる際、何かポジティブなものを世に生み出したいと思いました。
サスティナブルなものや環境に配慮されているものを作るべきだと感じていたんです。そこで、ジュエリーの素材としてリサイクルシルバーを使っています。

──どのように素材を調達していますか?
ソフィー 私たちの工場で使われた部品の破片や残りは同じ工場内ですべてリサイクルメタルとして生成され、再利用されます。また、大きな工場とも契約し、医療用品や電子機器などをつくる工程で生まれた金属を継続的に譲り受け、一度溶かして、リサイクルメタルとして使用するという取り組みも始めています。
私がこのコンセプトを思いついた10年前はヨーロッパではまだ、このような考えは一般的ではありませんでした。今は、同じ志を掲げるデザイナーも増えてきましたし、周囲の理解も得られるようになっています。
スペインではほぼリサイクルメタルへとシフトされていますし、イギリスもその後を追っています。
すごくイノベーションが起こっているんですよね。
──シグネチャーアイテム「Silhouette Pierced Earring」はワイヤーの優雅な曲線が魅力的ですね。
ソフィー シンプルなフープピアスなのですが、遊び心としてひとひねりの曲線を加えています。フープを少し引っ張ったような洋梨のようなフォルムです。自然のものから感じるフォルムが私にはしっくりきます。
2020年に発表したものですが、いまも変わらず好きなデザインですね。ワイヤーが細いので、キャッチを入れる部分には苦労しました。シンプルに見せたいからこそ、難しいところもあるんです。

──「BAR Jewelry」はデイリーでカジュアルなスタイリングにも、モードな華やかさとも組み合わせられる魅力があると思います。その秘訣はどんなところでしょうか?
ソフィー タイムレスであることだと思います。ピュアでシンプルなデザインにすることで、長く使えます。飽きがこず、ずっと使えることは長期的にみると、サスティナビリティにもつながると考えています。
私はもともと着飾ったり、大ぶりなジュエリーをつけるタイプではなくて。自分のためにというわけではないのですが、私と似たようなひとのためにシンプルなジュエリーがあってもいいなと思います。
──デザインのイメージはどのようなところから得ていますか?
ソフィー デザインのインスピレーションは自然から受け取ることが多いです。自分の家の庭や近くの植物園に出かけることも多いです。森の中を歩いている時に見かけた木々や植物の蔓など、曲線に目を凝らしています。建築や彫刻からも影響を受けていますね。
──「Dancing Hearts Earrings」も人気の定番デザインですね。
ソフィー そうなんです。腕のいい職人たちが作ると、とても綺麗なハート型に作れるのですが、わざとアシンメトリーなフォルムにしたいと考えました。でもそのゆがみなどの不完全さにも魅力を感じるんです。職人がひとつひとつ手作業で作っているので、少しずつ表情が違うところも楽しんでもらえる点だと思います。
日本には“金継ぎ”という文化があると思いますが、それも不完全なものを貼り合わせたところに美しさを感じている文化ですよね。そういった日本の美意識も私のデザイン哲学に生きていると思います。